STAGE 5
ローターを削り出す
はみ出さない最大の形と円弧近似
🎯 ミッション
ローターの辺の形を決めよう。「どの回転位置でもハウジングからはみ出さない最大の形」という条件、辺の中点が中心から R−2e になる理由、そして2頂点と中点を通る円弧の半径 ρ=((R√3/2)²+s²)÷(2s) の出どころを説明できれば合格。
未達成

ねこ博士
ハウジングが描けたので、今日はローターの辺を決めよう。3つの頂点の位置はもう決まっている。問題は、頂点と頂点をどんな線で結ぶかだ。

うさ美
まっすぐ結んで正三角形にしたら、だめですか? 壁は外側にふくらんだ形なので、頂点が壁の上にあれば、直線の辺は壁の内側に収まると思います。

ねこ博士
そう、直線でも壁には当たらない。ただ、それだと辺と壁の間の部屋が大きすぎる。エンジンは部屋を小さくして混合気を圧縮する必要があるから、部屋がいちばん小さくなる瞬間に、できるだけ小さくしたい。つまり辺を外側にできるだけ膨らませたい。ただし条件がある。どの回転位置でも、ハウジングからはみ出さないことだ。

うさ美
ローターは回りながら位置も向きも変わるので、ある瞬間はみ出さなくても、別の瞬間にはみ出すかもしれない。全部の瞬間を調べないといけない、ということですか?

ねこ博士
その通り。それを一度に見る方法がある。STAGE3の「腕に乗って見る」と同じ発想で、今度はローターに乗って見るんだ。ローターに乗った人には、ローターは止まって見えて、かわりにハウジングのほうが自分のまわりをぐるぐる動いて見える。ハウジングが通り過ぎた場所には、ローターの体があってはいけない。だから、ハウジングが通った場所を全部削っていくと、削られずに残った形が、はみ出さない最大のローターになる。この「動く曲線がぎりぎり触れていく境目の線」を、数学では包絡線(ほうらくせん)という。
ローターに乗って見た図(ローターは止まっていて、ハウジングが動いて見える)。重ねる位置の数を増やすと、ハウジングが通った場所(灰色)が広がり、通らなかった場所(白)が三角おむすびの形に残る。これが「はみ出さない最大のローター」。青い線は、このステージの後半で作る円弧近似のローター

うさ美
残った形は、正三角形の辺を外側にふくらませたおむすびになりました。辺の真ん中は、中心からどのくらいの距離まで残るんでしょうか。

ねこ博士
いちばん厳しいのは、ハウジングのくびれが辺の真ん中に迫ってくる瞬間だ。くびれは、O から R−e のところにあったね(STAGE4)。頂点の1つが上のくびれにちょうど触れている瞬間を考えてみよう。そのとき、ローターの中心 C と、向かい側の辺の真ん中はどこにあるかな。ローターの角度 θ=90° のときだ。

うさ美
θ=90° なら α=270° なので、C=(e cos 270°, e sin 270°)=(0, −e)。中心は O の真下 e のところです。頂点0 は C から真上(90°)に R だから (0, R−e)、たしかに上のくびれの位置です。向かい側の辺の真ん中は、C から見て頂点0 と反対の真下の向き。下のくびれは (0, −(R−e)) にあるので、C からそこまでの距離は (R−e)−e=R−2e。13B なら 105−30=75 mm です。

ねこ博士
そう。そして、他のどの回転位置でも、辺の真ん中に壁がこれより近づくことはない。だから辺の中点は、ローターの中心から R−2e のところまで膨らませていい。では、正三角形と比べてどれだけ膨らんだことになるかな。

うさ美
正三角形の中心から辺の中点までの距離は、中心から頂点までの距離の半分です。中心は各中線を 2:1 に分けるので。だから R/2=52.5 mm。膨らみの高さは 75−52.5=22.5 mm。式で書くと (R−2e)−R/2=R/2−2e です。

ねこ博士
その通り。この膨らみの高さを、弓の「矢」にたとえて矢高(しこう)と呼び、記号 s で表そう。s=R/2−2e だ。

ねこ博士
さて、包絡線の正確な形は、じつはかなり複雑な曲線で、式で書くと長くなる。そこで、この旅の約束どおり近似を使う。2つの頂点と、辺の中点の3点を通る円弧で辺を描くんだ。3点を通る円は1つに決まるから、円弧の半径さえ分かれば描ける。

うさ美
3点を通る円の半径……。弦(げん)の長さは正三角形の1辺です。正三角形の1辺は、頂点から中心までの距離 R を使うと、半分が R cos 30°=R×(√3/2) なので、辺の半分の長さ h=R√3/2 ≈ 90.9 mm。円弧の半径を ρ(ロー)とすると、円の中心は辺の中点の真下(ローターの中心側)に ρ−s のところにあるはずです。頂点は円の上にあるので、三平方の定理で、
ρ²=h²+(ρ−s)²
ρ²=h²+ρ²−2ρs+s²
0=h²−2ρs+s²
ρ=(h²+s²)÷(2s)。
数を入れると、(8268.75+506.25)÷45=8775÷45=195 mm です。
ρ²=h²+(ρ−s)²
ρ²=h²+ρ²−2ρs+s²
0=h²−2ρs+s²
ρ=(h²+s²)÷(2s)。
数を入れると、(8268.75+506.25)÷45=8775÷45=195 mm です。

ねこ博士
そう。ρ=(h²+s²)/(2s)、13B なら 195 mm。この半径の円弧を、3つの辺それぞれに描けばローターの完成だ。心配なのは、円弧が包絡線からはみ出さないかどうかだけれど、調べてみると円弧は包絡線よりわずかに内側(いちばん離れたところでも 2 mm 弱)に収まる。はみ出す心配はない。

うさ美
ぴったりではなく、少し内側なんですね。実物のローターも、この円弧なんですか?

ねこ博士
実物の設計では包絡線に近い曲線を使うことが多いけれど、辺の面には燃焼室になるくぼみが掘られていたり、密封部品の溝があったりして、そもそも「なめらかな1本の曲線」ではない。だから骨格として円弧を使う近似は、十分に実物らしい図になるよ。膨らみを自分で変えて、はみ出す様子も確かめておこう。
辺の中点の距離 dm を増やすとローターが太る。dm=R−2e=75 までは、どの角度でも壁の内側に収まる(余裕は 0 以上)。それを超えると、回転のどこかで壁からはみ出す(余裕がマイナスになり、はみ出す部分が赤く光る)。矢高 s=dm−R/2、円弧の半径 ρ=(h²+s²)/(2s)
【このステージの成果】
辺の条件:どの回転位置でもハウジングからはみ出さない、最大の膨らみ
ローターに乗って見ると、ハウジングが動いて見える。通過した場所を削った残り=最大のローター(包絡線)
辺の中点の距離:くびれが迫る瞬間(θ=90°)に (R−e)−e より、dm=R−2e(13B:75 mm)
矢高 s=dm−R/2=R/2−2e(22.5 mm)、辺の半分 h=R√3/2(90.9 mm)
円弧近似の半径:三平方の定理 ρ²=h²+(ρ−s)² より ρ=(h²+s²)/(2s)(195 mm)。円弧は包絡線のわずか内側に収まる
確認クイズ
Q1. ローターの辺の形は、どんな条件で決める?
正解! 部屋をしっかり小さく(圧縮)できるように膨らませたいが、回転のどの瞬間にも壁を突き抜けてはいけない。ローターに乗って見て、ハウジングが通らなかった場所が答えになる。
Q2. 辺の中点は、ローターの中心からどれだけの距離まで膨らませられる?
正解! 頂点が片方のくびれに触れているとき、向かいの辺の中点にもう片方のくびれが迫る。くびれは O から R−e、中心 C はそこから e だけ遠いので R−2e。13B では 75 mm。
Q3. 弦の半分の長さが h、矢高が s のとき、円弧の半径 ρ は?
正解! 円の中心は中点の真下 ρ−s のところにあり、頂点までの距離が ρ なので、ρ²=h²+(ρ−s)²。整理すると ρ=(h²+s²)/(2s)。13B では 195 mm。