STAGE 2
中心がずれた軸
偏心量 e と創成半径 R
🎯 ミッション
偏心軸の役割を理解しよう。偏心量 e と創成半径 R の意味、出力軸が α 回ったときのローター中心の座標 (e cos α, e sin α)、そして「ローターが軸と同じ向きのまま回ったらエンジンにならない」理由を説明できれば合格。
未達成

ねこ博士
今日は偏心軸の話だ。ロータリーエンジンの出力軸(回転を外へ取り出す軸)の中心を O と呼ぼう。ローターは、この軸にただ刺さっているのではない。軸の途中に、中心をずらした太い円盤が付いていて、ローターはその円盤にはめ込まれている。だからローターの中心 C は、軸の中心 O から少し離れたところにある。この O と C の距離を偏心量(へんしんりょう)といい、記号 e で表す。

うさ美
軸が回ると、ずれた円盤も一緒に回るから、ローターの中心 C は、O のまわりを半径 e の円を描いて回る、ということですか?

ねこ博士
そう。出力軸が回った角度を α(アルファ)と書くことにすると、C の位置はSTAGE1の円の式そのものだ。

うさ美
半径 e の円の上で角度 α の点だから、C=(e cos α, e sin α) です。

ねこ博士
その通り。もう1つの寸法を決めよう。ローターの中心 C から3つの頂点までの距離を創成半径(そうせいはんけい)といい、記号 R で表す。「創成」は「形を生み出す」という意味で、この半径がハウジングの形を生み出すからそう呼ぶ。さて、実際の値を見てみよう。マツダのロータリーエンジン「13B」では、e=15 mm、R=105 mm だ。この旅では、この2つの数をずっと使う。

うさ美
偏心量はたった 15 mm なんですね。R の7分の1しかありません。

ねこ博士
小さく見えるけれど、これがないとエンジンは回らない。なぜ中心をずらすのか、考えてみよう。ドアを思い浮かべてごらん。ドアを開けるとき、蝶番(ちょうつがい)のすぐそばを押しても、ほとんど動かない。蝶番から離れた取っ手を押すと軽く回る。ものを回すには、回転の中心から離れたところに力をかける必要があるんだ。

うさ美
ローターは燃えたガスに押されるから、その力を軸の回転に変えたい。もしローターの中心が軸の中心 O とぴったり重なっていたら、蝶番を押しているのと同じで回らない。だから中心を e だけずらして、O から離れた C を押す形にしている、ということですか?

ねこ博士
そう。ピストンエンジンのクランク軸と同じ仕組みだよ。クランク軸も、中心からずれた腕の先をピストンが押すから回る。ロータリーエンジンでは、ローターがその腕の先に乗っている。腕の長さが e だ。
出力軸の中心 O(金色)のまわりを、ローターの中心 C(赤)が半径 e の円(赤の点線)を描いて回る。R=105 mm は固定。「ローターを軸と同じ向きで回してみる」を押すと、頂点の軌跡(灰色の点線)が半径 R+e のただの円になってしまう様子が見える

ねこ博士
では、頂点の位置を式にしてみよう。頂点は C から距離 R のところにある。頂点の向き、つまり C から頂点へ向かう角度を、いったん β(ベータ)と呼んでおく。

うさ美
STAGE1の「中心が (a, b) の円」の式と同じです。中心が C=(e cos α, e sin α) で半径 R だから、頂点は (e cos α+R cos β, e sin α+R sin β) です。

ねこ博士
そう。あとは β、つまりローターの向きが軸の角度 α とどう関係するかを決めれば、頂点の位置が α だけで書ける。試しに、いちばん単純な場合を考えてみようか。ローターが軸に固定されていて、軸と一緒に同じ向きで回るとしたら、β=α だね。そのとき頂点はどんな道を描くかな。

うさ美
β=α なら、頂点は (e cos α+R cos α, e sin α+R sin α)=((e+R) cos α, (e+R) sin α)。これは半径 e+R のただの円です。ハウジングがただの円になってしまいます。

ねこ博士
そうなんだ。そしてハウジングが円だと、ローターの辺と壁の間の部屋の大きさが、回ってもまったく変わらない。エンジンは、部屋を大きくして混合気を吸い込み、小さくして圧縮し、燃やして大きくし、小さくして排気する――部屋の大きさの変化で動く機械だ。大きさが変わらない部屋では、何も起きない。

うさ美
ということは、ローターは軸と違う速さで回らないといけないんですね。実物の映像で見た、おむすびがゆっくり回っているように見えるのは、そのせいですか?

ねこ博士
いいところに気づいたね。次のステージでは、ローターの回り方を歯車で決める。そこで β と α の関係が出てきて、頂点の道は円ではなく、あの繭形になる。今日は、その準備として2つの数 e と R、そして「C は半径 e の円を描く」ことが手に入った。
【このステージの成果】
出力軸の中心 O、ローターの中心 C。O と C の距離が偏心量 e(13B では 15 mm)
C から頂点までの距離が創成半径 R(13B では 105 mm)
出力軸の角度を α とすると、ローター中心 C=(e cos α, e sin α):C は半径 e の円を描く
頂点の向きを β とすると、頂点=(e cos α+R cos β, e sin α+R sin β)
もし β=α(ローターが軸と同じ向きで回る)なら頂点の軌跡は半径 R+e の円になり、部屋の大きさが変わらず、エンジンにならない
確認クイズ
Q1. 偏心量 e とは、どの長さのこと?
正解! 偏心量 e は、軸の中心とローターの中心のずれ。13B では 15 mm。ドアの取っ手と蝶番の距離のように、回す力を生むために必要なずれだ。
Q2. 出力軸が角度 α だけ回ったとき、ローターの中心 C の座標は?
正解! C は O のまわりを半径 e の円を描いて回るので、STAGE1の円の式で半径を e にすればよい。
Q3. もしローターが出力軸と同じ向き・同じ速さで回ったら、頂点の軌跡は?
正解! β=α のとき、頂点=((e+R) cos α, (e+R) sin α) となり、ただの円。部屋の大きさが変わらないのでエンジンにならない。だからローターは軸と違う速さで回る必要がある。